コンテンツ
ヘッダ

きりきりしゃんと!

小説家、榎木洋子の日記。仕事に関するもの、 そうでないもの。

カレンダー

<< November 2018 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>

ボディ
メインコンテンツ

記事

タイトル
タイトル
小説「廃墟の植物園で僕にあった事」2
記事本文
 昨日に続いてツイッターで発表した物を貼りつけます。
ペタペタ。
長いためやっぱり続きから。

後書きも書きたいけど、こっちは気が向いたらにします。



記事続き
 第二部

 今年、ぎっくり腰になった母の代わりに8年ぶりに母の田舎に来た。
 田舎の道は舗装が進んで、昔登った山も、途中まで車で行けるくらいだった。
 僕は懐かしくて、真夏の日差しの中あの植物園へ向かった。白いワンピースのあの人と会った所に。
「随分荒れちゃったな」

 植物園は長年手入れされずひどい有様だったけど、雨宿りした建物は残ってた。八年前は楽々くぐれた場所を目一杯屈んで入る。最初のホールにはテーブルが散乱して天井の一部も崩れてたけど、ちゃんと見覚えがあった。
「ここだったんだ……」

 倒れてるテーブルを全部起こして、昔通りのピラミッドに組み上げたかったけど、一人じゃ無理そうだった。だから一つだけ起こしてその上に座って空を見上げた。
 青い空とむくむく伸びる入道雲。
「今年もまた、流れ星見えるかな」
 そう呟いたら、入口で物音がした。振り向くとそこに――

 女の子がいた。白いワンピースの裾を翻して走り去るところだった。
 ……白い、ワンピース!? おまけにちらっと見えた横顔は八年前のお姉さんそっくりで……。
「待って!」
 叫んでテーブルを飛び降りたら、慌てすぎてテーブル事ひっくり返った。
「いっててぇ〜」

 その間に女の子はホールの外へ出ていく。
 ロスタイム15秒。
 起き上がって走ったけど、僕が建物の外へ出た時には、もうどこにもその子の姿は見えなかった。
「今の……お姉さん?」
 上がった息を整えながら考えた。ひょっとして僕に会いに来てくれた? 

 白い色した手足が目に焼き付いてる。僕が大きくなってて驚いたのかな。ちゃんとお礼を言いたかったのに。あの時また会えるって聞けばよかった。会いたかったんだ、ずっと。だって、僕の……お姉さんは僕のさ……幽霊に初恋って笑っちゃうだろうけどさ。

 けどまたニッコリ笑ってくれるなら、なんでもいいって思ってたんだ。
「なんだ、こんなことなら、次の年にちゃんとくりゃよかった。子供のうちにさ……」
 息が切れたまま僕は言って、やっぱり少し泣いた。擦りむいた手足がジンと痛み出してた。

 五月蠅くセミの鳴く中、僕は母の実家に戻った。
 玄関脇の水道で擦りむいた手足を洗って、ホースから直に水を飲んでると縁側から話し声が聞こえた。伯母さんとだれか。親戚がまた来たみたいだ。挨拶いるかなと「こんにちはー」って縁側に回ったら、白いワンピースが目に飛び込んできた。

「あっあああっ。お、お、」
 お姉さんがいた! 僕が驚いて立ちつくしてると、こっちを向いたお姉さんも驚いた顔をして、すっくと立ち上がると僕を指をさした。
「あんた、植物園にいた変態!」
 …………え? 
「えええっ、なんで変態」
「だってあたしのこと追いかけてきたじゃない!」

「お、追いかけたら変態かよ!」
「当たり前でしょ! あんな廃墟の植物園で、テーブルに座ってにやけてる男なんて!」「うぐ……」
 僕は言葉に詰まった。本当の事だから。けど、ホラ見なさいって顔の女の子に段々腹が立ってきた。こいつはお姉さんなんかじゃない。

 優しいお姉さんが、こんなこと言うはずない。
「自分だって何の用だよ、あんな廃墟の植物園に。流行の廃墟マニアかよ!?」
「それはこっちの台詞!」
「ハイハイ、そこまで!」
 言い合いしている僕らの間に、伯母さんの団扇が相撲の軍配みたいに差し出された。

「あんたたちあの植物園に行っとったの? 昔痛い目に遭ったでしょうが。また迷子になって一晩帰れん事になるよ?」
「ならないよ、あの時は子供だったから!」
「迷子じゃなくて去年のあれは抗議の家出だったの!」
 僕と彼女が同時に言って互いに顔を見合わせた。

 数分後、僕はスイカを持って炎天下の道を歩いてた。
「はい、喧嘩せんと。これ綾ちゃんち持って行って。重いからコウちゃんが持って行くんよ。それで仲直り」
 伯母さんが俺の手に袋を持たせて上からぎゅっと握った。拒否権無はなかった。そして隣には白いワンピースの女の子。

 緩い坂道を僕たちは登った。視界の隅で白いワンピースが揺れてる。
 綾は去年大学受験を反対されて、抗議のために一晩家出したと言ってた。若くして亡くなった姉の行きたがっていた大学だった。綾は僕が八年前に手をあわせたお姉さんの妹だった。いや、本当は妹じゃなく……。

「家出してあの植物園に行ったら男の子に会ったの」
 綾がポツポツと話した。
「東京から来た子。その子がいたから夜も怖くなかったし寂しくなかった。でも翌朝目が覚めたらその子はいなくて、代わりに鳥の白い羽が落ちてて。わけ分かんないよね、こんな話」
「分かるよ」
 僕は言った。

「ひいじいちゃんのお墓参りに来たんだ。遊んでて迷ったって……」
 綾の視線が僕に突き刺さる。僕は勇気を奮った。
「僕、言ったよね、その時」
 綾の顔を見て僕は震えそうになりながら続けた。
「僕も、持ってる。白い羽」
 僕と綾の間の細い細い線が、また繋がった瞬間だった。

 僕らは立ち止まった。先に口を開いたのは僕だった。
「八年前に僕の事を面倒見てくれてありがとう。ずっと会いたかった」
「……信じるの? 夢かもしれないのに?」
 綾の不安そうな顔。
「――だったら同じ夢見たんじゃないかな?」
 僕の言葉で綾の顔に笑顔が浮かんだ。

 ずっと見たかった笑顔。なんだ、こんな近くで簡単に見られたんだ。だから僕はもう一度勇気をかき集めた。
「あのさ、見にいかない?」
「なに?」
「毎年この時期は、ペルセウス座流星群が現れるんだって。だから、流れ星。またふたりで見に行かない?」
「行く! うん、見に行く!」

坂道の上、白いワンピースの背中を、夏の空へ向かって白い鳥が飛んでいった。

                                            終わり。

前後の記事
<< 小説「廃墟の植物園で僕にあった事」 | TOP | 廃墟の植物園で……の後書き >>

Comment

コメント送信

Trackback

フッター
コピーライト
This template is made by CYPHR. (C) 2018 ブログ JUGEM Some Rights Reserved.